第1章 マンションの維持管理としての修繕

1 修繕の必要性

(1)マンションも老化する
  建物は、マンションに限らず、屋根や外壁、給排水管や消防設備な

 ど構造体と仕上部分、管類や機器類が組み合わされてできています。

 マンションは鉄筋コンクリートや鉄骨鉄筋コンクリートといった堅固

 な構造物のため、木造建築と違い、大変長持ちするものと一般に考え

 られています。
  しかし、いかに長持ちしそうに見えてはいても、竣工直後から建物

 の各部分の性能は、次第に変化を始めるものなのです。
  例えば、屋根を一例にあげると、防水層の性能は熱や温度差による

 ヒビ割れ、ふくれによって当初の性能は一定年数で失われ、防水とい

 う基本的な役割を果たさなくなります。

  露出アスファルト防水の場合は、理論的な標準耐用年数は13年とい

 われています。
  また、コンクリートは、鉄筋を錆びにくくするアルカリ性が空気中

 の炭酸ガスによって次第に中性化する性質を持っており、コンクリー

 ト表面から1年に0.5o程度の速さで進行します。コンクリートの化学

 的性質から細かいヒビ割れはつきものですが、構造的性質からのヒビ

 割れも発生します。これらのヒビ割れ部分に雨水などが浸入し次第に

 鉄筋を錆びさせ、膨脹させてコンクリートのクラック(亀裂)を大き

 くします。
  こうなると、仕上材のモルタルのふくれやはがれが生じます。これ

 が雨漏りや仕上材などの落下の原因となり、また、鉄筋とコンクリー

 トが一体となって強度を発揮する構造体としての役割を果たしてくれ

 ないことにもなります。
  設備機器についても、年々摩耗が進み、部品の取替えや分解修理を

 しないと当初の働きをしなくなります。
  このように、建物・設備の性能や機能が年々落ちていき、期待され

 る働きをしなくなることをを経年劣化と呼んでいます。

(2)マンションの住みごこちは修繕が左右する
  経年劣化がある程度進行すると、雨漏りや漏水、赤水、管のつまり、

 断水など機能障害を起し、外壁タイルの落下のように人命にかかわる

 非常事態も生じてきます。経年劣化は生活をするうえでの支障となる

 ばかりか、健康や安全にもかかわる問題を引き起します。
  修繕は、経年劣化に対して建物・設備の性能を現状に回復して居住

 性能を回復し、快適に住めるようにすることが第一義的な目標となり

 ます。
  さらに、マンションの場合は生活の器としての機能の他に、不動産

 としての資産価値を持っており、その水準の維持・向上も大事な要素

 です。   
  最近では、住宅金融公庫の優良中古マンション融資制度の創設によ

 り、修繕の結果が、中古マンション売買の際に融資条件の優遇という

 形で評価されるような時代になってきました。
  マンションが、都市型居住形態として一般化し、その量も次第に増

 えるにしたがい今後更にこのような施策が広げられていくものと思わ

 れます。

2 計画修繕とは
(1)維持保全にもいろいろある
  マンションの管理については、区分所有法や管理規約・各種の使用

 細則に則った権利関係・生活ルールなどに関しての管理組合の運営に

 係るソフト面と、建物及び付帯施設などの「物」の管理に係るハード

 面の二つに区分することができます。
  「物」の管理は、「維持保全」という呼び方で総称されますが、内

 容を段階的に分類すると、次のようになります。
      @ 保守・点検
      A 経常修繕      
┌─  大規模計画修繕
 B 計画修繕 ─────┤
└─  小規模計画修繕
 C 改良

(2)保守・点検とは何か
  点検とは、年月の経過に伴う傷み具合を、定期的かつ継続的に調べ

 るものです。建物の外壁や階段など共用部分についての外観上の点検

 と、給排水設備などについての機能点検があります。また、各種の法

 律に基づいて行うことが義務づけられているものと、任意に行うもの

 があります。
  問題の所在を発見するための点検、適宜必要となる手入れとしての

 保守が、通常一体としてなされるため、保守・点検と呼びます。
  これによって、応急的な修繕としての経常修繕を行ったり、修繕計

 画のチェックをしたりすることが可能になります。
(3)経常修繕とはどんなことか
  経常修繕は、保守・点検によって発見されて、まだ修繕の処置がな

 されなかったものや、日常的に発生する雨漏りなど突発的な故障のよ

 うな不具合に対して、部分的な修繕ないし取替えを行うものです。
  経常修繕は、破損や故障といった不具合が発生してから行う対症療

 法的な修繕で部分的であるため、一件当たりの費用も小額となること

 から経理的には管理費のなかから支出されているのが一般的です。
(4)計画修繕とは何をするのか
  建物の維持保全は、経常修繕の積み重ねだけでは不十分であり、一

 斉に行う修繕が必要になります。
  この一斉修繕は、予め定められた修繕周期を目安に、計画的に行う

 もので経常修繕とは異なり重大な不具合が生じる前に予防的に実施す

 るものです。
  実際の修繕時期は、日常の保守・点検、劣化診断の結果から決める

 ことになります。
  計画修繕の工事には、大きく分けて大規模計画修繕と小規模計画修

 繕があります。前者は、外壁修繕のように長い年数の間に起こる比較

 的高額の経費を必要とするものであり、後者は、金額は少ないが、ポ

 ンプ交換など計画的に実施が求められるものです。
(5)改良とは何か
  修繕とは、その「物」が持っていた当初の性能や機能への復元・回

 復または多少の質の向上を伴う工事で、例えばバルコニーの床防水や

 外壁塗装材のグレードアップ等があげられます。
  これに対し改良は、その当初の性能や機能を超えて新たに付加した

 り、性能を向上させることをいいます。
  例えば、集会所の増築や駐車場増設、玄関オートロックシステム化

 などがあげられます。
  これは、マンションの建設後の技術向上や高齢化社会への移行など

 社会の変化に伴って、マンションに対するニーズが変化していく結果、

 マンションをより快適な生活の場とするために実施されるものです。
  これからは、マンションの老朽化対策として、計画修繕に社会の変

 化に対応した改良を加え、耐用年数を延ばすことが益々大切なことに

 なっていくことでしょう。
(6)マンションの寿命は維持保全次第 
  維持保全の内容はこのように段階的に分けられますが、それぞれが

 バラバラにあるのではなく、次の図のように実際には関連し合ってい

 ます。
┌─────┐
┌───────┤ 保守点検 ├───────┐
│ │ │
│ │ │
┌──┴──┐ │ ┌──┴──┐
│ 経常修繕 ├────┤ 劣化診断 ├────┤ 経常修繕 │
│ │ │
│ │ │
│ │┌─────┐│ │
│ ││ 計画修繕 ││ │
└──────┤ ├──────┘
││ 改  良 ││
└───────┘

                       [維持保全のサイクル]


  継続的な保守点検による修繕箇所の早期発見と手入れや修繕は、耐

 用年数を延ばす基本です。                         
  きちんとした保守点検を継続していれば、マンションの固有の経年

 劣化の特徴は比較的早くわかりますし、経常修繕の記録の積み重ねは

 建物のウィークポイントを教えてくれます。
  保守点検と経常修繕の繰り返しと積み重ね、さらに劣化診断によっ

 て計画修繕の時期や範囲などがより的確につかめるようになるもので

 す。

 

shikiri.gif (1998 バイト)

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